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『空のそらと、風のうた』~episode:end -風のうた・2-
怒声混じりの奴らの声は、まだずいぶん遠くのほうから聞こえているが、飛行機が
飛び立つためには、それなりの距離を走り、それから徐々に浮き上がらなければならない。
これは――今すぐにでも、機体を走らせなければ、確実に間に合わない。
「アウラ!今から飛行機を動かす、ものすごく揺れると思うけど、しっかり掴まっていて!!」
『空のそらと、風のうた』~episode:end -風のうた・1-
どこまでも続くかのように思えた長い梯子にも、ようやく終わりが見えてきた。
途中何度か腕の力が抜けそうになることもあったが、彼女を守るという一心で持ち堪え、
最後の数段を昇りきる。
地上に出ると、アイツが言ったとおりすぐ目の前に整備場が見えていた。
『空のそらと、風のうた』~episode:16 -ふたりの息子-
ザッ、ザッ、ザッ。
少し離れた場所から、規則的に音を刻む足音が聞こえている。
こちらに向かっておるようだな。数は……一人か――。
「……武器をしまってくれ。俺だ」
『空のそらと、風のうた』~episode:15 -サイカイ・結-
「まずは俺が中の様子を確認する」
様々な想いにかられ、物思いに耽っていた僕は、つい浮ついた返事を返してしまった。
だが男はそれを咎めるでもなく、先に梯子を昇って隠し扉を開き、抜け目なく地下牢の中の
様子を確認していた。さすがだな……。
『空のそらと、風のうた』~episode:14 -救出-
男が同行しているとはいえ、屋敷内に入ることにはそれなりに勇気が必要だった。
男の指示どおり、見回りは外に集中しているようだが、屋敷内にもまだ人の気配をかなり感じる。
「心配するな。万一、部下共に出くわした時には俺がなんとかする。では、一気に行くぞ」
そういうと、男はものすごい速さでいくつかの通路を走り抜けていく。
『空のそらと、風のうた』~episode:13 -ゆずれないもの-
「なかなかいい殺気を放っているな。上出来だ」
「アンタがそんなつまらない言葉を吐くとは意外だよ。でも当然だろう?なんたって用心棒の
“旦那”が目の前にいるんだぜ。そりゃいやでも、そうなっちまう」
「懐に隠したそいつを下ろしてくれないか。怖ろしくてかなわん」
『空のそらと、風のうた』~episode:12 -それぞれの思惑-
「おい、居たのか!!」
「いや、こっちには居ねぇ!あのガキめ、どこに消えやがった。地下牢付近に張りつかせて
おいた見回りにも連絡がつかんぞ」
「その上、当主様はあんなことになっちまうし……一体なにがどうなってるんだ!くそっ……。
『空のそらと、風のうた』~episode:11 -たたかう理由-
僕が“脱獄”してしばらく経ったが、屋敷内が慌ただしくなることは、今のところないようだ。
よし、知っている場所に出た。ここからは――。
「お前……地下牢にぶち込まれたはずだぞ!どうやってここに!!」
見回りの隙を見計らい、路地を近道して通り抜けようとしたのだが、タイミングがまずかった。
『空のそらと、風のうた』~episode:10 -あらかじめ失われたもの・2-
「なにがいいものか……」
「ロ、キ……?」
「いいか、僕がここに戻ってくるまで、絶対にあきらめたら……死んだらだめだからな!!」
「……ロキ」
『空のそらと、風のうた』~episode:10 -あらかじめ失われたもの・1-
ここは牢ではなかったのだろうか。
すでに体全体を開き降伏の意を示した扉の、その隙間を覗き込んでみる。人は……いない。
だが、他の部屋の様子がこことは違う。外に見えるのは、いわゆる鉄格子の牢だった。
やはり、ここは牢で間違いない。しかし、僕だけなぜ、こんな妙な部屋に監禁されていたんだ。
『空のそらと、風のうた』~episode:09 -自由の対価-
今日だけですでに二度も散々痛めつけられ、すっかり、いたぶられ癖がついてしまった僕は、
今度こそ明るく悪趣味な部屋ではなく、ジメジメとした薄暗い場所で目を覚ました。
申し訳程度に灯された灯りが、固い寝台から半身を起した僕の後ろ側に、ぼんやりとした
僕の影を作りだしている。
『空のそらと、風のうた』~episode:08 -誰のものでもない風-
その晩から数日が経った、ある日の早朝――彼女が脱走を図った。
しかし、屋敷を抜け出すどころか、部屋を抜け出してまもなく、すぐに捕まってしまったという。
それとちょうど同じ頃か、その少し前くらいに、僕はあの晩に彼女と出会った部屋を探していた。
暗闇の中、おそらく歩いたと思われる道をなんとかたどりつつ、屋敷をさまよいながらようやく
『空のそらと、風のうた』~episode:07 -サイカイ・継 -なかない篭の鳥-
少女は人形だった。
いや、それは正しくない。
正しくは、人形のように扱われている、と言うべきだろうか。
どうやら彼女は、ジジイ……当主のお気に入りらしく、いつも綺麗な服を着せられては、
『空のそらと、風のうた』~episode:06 -空のそら・2-
それから、あっという間に月日は過ぎ、知らぬ間に背もずいぶん伸び、声も変わった。
ここに連れて来られて約三年と少し過ぎた頃、僕は大抵のことを一人でこなせるようになった。
「泣き言も言わず、ここまでよく耐えたものだ」
「アンタ……いえ、あなたのおかげです」
『空のそらと、風のうた』~episode:06 -空のそら・1-
僕が下層の人間でなければ、初めて乗った車や初めて見る景色に、感動したり興奮したり
したのだろうか。しかし、その時の僕は、故郷から無理矢理引き剥がされた失意と、これから
どうなるのかという不安で頭が一杯で、屋敷までの道のりも景色も覚えていなかった。
車が屋敷に到着すると、男(少女に出会った晩、話をした妙な男だ)が僕を連れて
『空のそらと、風のうた』~episode:05 -邂逅の回想・2-
……あ。
声こそ聞こえなかったが、抱えあげられる直前、微かに動いた唇がそう呟いた気がした。
なにが、どうなってる……?
でも、その声なき声の意味を探ろうとしたのが失敗だった。今は油断をして良い時ではなかった。
『空のそらと、風のうた』~episode 05 -邂逅の回想・1-
この国はまだ豊からしい。
なんの問題もなく食べられるものを、平気で廃棄処分するくらいには。
けれど、皮肉にもその現実が、飽食の世界の裏側で細々と生きる僕達の日々と、命を繋いでいる。
それに食べ物だけじゃなく、まだ使える衣服や物なども勿体ないことに(僕達には有難いことに)
『空のそらと、風のうた』~episode:04 -サイカイ-
僕は未だ屋敷の中で、再び帰る道を見失い、右往左往していた。
いくら暗いとはいえ、ここまで方向音痴っぷりを発揮してしまう自分にかなり泣けてくる。
屋敷内には所々、薄明かり程度にかがり火が灯されているものの、ついには見知らぬ場所に
出てきてしまっていた。
『空のそらと、風のうた』~episode:03 -侵入‐(episode link 03~07,00)
屋敷にたどり着くまでの間、僕は僕自身に何度問いかけただろう。
これから自分がしようとしている、そのことの意味を。もし失敗すれば確実に消される。
そうなれば爺さんも助からない。これからやろうとしていることは、そういうことなのだ。
それでも、行くのか。僕に、その覚悟があるっていうのか。
『空のそらと、風のうた』~episode:02 -世界の孤独-
世界には大勢の人があふれている、という。
けれど、僕達の世界に関わりを持とうとする者は、ほとんどいない。
僕達の世界に関わりのない、たくさんの人間達。
彼らはそれぞれに世界を持っていて、誰もがその中で、それぞれに主役を演じているという。
『空のそらと、風のうた』~episode 01 -序奏 夢見る翼-
大きな影が爆音とともに、頭上を駆け抜けていく。
灰色がかった白線を空に残しながら、一機の飛行機が空の向こうに消えていく。
その姿を眺めることがいつからか、幼ない少年の日課になっていた。
少年は、そうして空を眺めることが大好きだった。
『空のそらと、風のうた』~episode 00 -命をつなぐもの-
「……ってぇ……うぐ、げほ、げほ……!」
「なんだ、その目は……おらぁっ」
不意の衝撃を感じて数秒後、少年は自分の体が宙を舞い、そのまま地面に落ちたのだと知った。
口の中に、じわりと錆びた鉄のような匂いと味が広がる。あれ、この感覚、いつかどこかで……。