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『空のそらと、風のうた』~episode:06 -空のそら・2-

それから、あっという間に月日は過ぎ、知らぬ間に背もずいぶん伸び、声も変わった。
ここに連れて来られて約三年と少し過ぎた頃、僕は大抵のことを一人でこなせるようになった。

「泣き言も言わず、ここまでよく耐えたものだ」
「アンタ……いえ、あなたのおかげです」
「どちらでも構わんが。とにかくこれで訓練は終了だ。後は繰り返し飛んで慣れていくことだな」
「ありがとうございます!」
「ふっ……。ちょうどいい頃合いだ。仕事に着く前に一度仲間の元へ帰ってみてはどうだ。
当主の許しは取り付けてあるからな」
「いいの、ですか!?」
「ああ。二日ほど故郷に帰り、気を休めて来るといい。だが、二日経ったら必ずここに戻ってこい。
いいな。戻ったらおそらくすぐに飛んでもらうことなる。少し長距離になると思うが」
「はい!」
「そしてもう一つ。訓練が終わるまではと思い、まだ伝えていないことがある。これから話すことは
お前の命に関わる重要な話だ。心して聞け」
「はい……なん、でしょう」
「お前も間もなく仕事で空を飛ぶことになるが、この屋敷の飛行機には追跡装置が施されている」
「……追跡、装置?」
「そうだ。それは既定の空路を外れたら爆発する仕組みになっている。ここにお前を連れてくる
前に飛んでいた男にも当然忠告はした。だが、愚かにも逃げようと試み……結果は、分かるな」
「……はい」
「装置を外そうとしても同じく爆発する。命が惜しければ、余計なことは考えずに、ひたすら
仕事をこなせ。そうすれば生きて、何度でも空を飛ぶことができる。くれぐれも忘れるな」

訓練の最後の最後に告げられた事実に、正直言って、かなりの衝撃を受けた。
……だが、せっかく数年ぶりに仲間の元に帰れるのだ、今はその喜びに浸ることにしよう。
そう気持ちを切り替えて、故郷への道を歩き始めた。

昼過ぎに屋敷を出て下層に帰りついたのは夕方前、ふらふらと帰ってきた僕に気づいた仲間達は、
大手を振って僕を迎え入れてくれた。そして、次々に僕のところに来ては、声をかけていく。
こんなにも長い間会っていなかったのに、皆、なにも変わらず、昔のように接してくれるんだな。
なんだかすごく懐かしい、僕にもこんなふうに帰る場所があったんだな。そう思うと泣けてきた。

「おぉ、ロキ。久しぶりではないか!!」
「……爺ちゃん、爺ちゃんじゃないか!ただいま、元気だったかい!?」
「あぁ、見てのとおりワシは息災だ、それにしても……立派になったものだな」
「へへっ、そう、かな?」
「あぁ、あぁ。それよりもお前は元気にしておったのか。屋敷ではどうじゃ。なにか酷い目に
遭わされたりしておらぬか?」
「そんなにいっぺんに質問するなって。大丈夫さ、今のところはね。仕事も一通り覚えたから、
ようやく休みをもらって帰って来ることができたんだ」
「そうか、それは御苦労なことだったな。して、屋敷での仕事とは、どんなことをしておるのだ。
話せぬことなら聞きはしないが」
「多分大丈夫、口止めはされてないし。それに聞いたら多分驚くよ。だってさ、僕は今……
パイロットになったんだ!」
「なんと!?それは、それは。なによりではないか。お前の夢が見事、叶ったというわけだな」
「そうだろ!?そうなんだよ!あ……でもさ」
「どうしたのじゃ、なにか問題でもあるのか」
「あ、うん……いや、なんでもない。せっかく夢が叶ったんだし、これからもっと頑張るよ」
「そうか……まぁ、働く場所が場所じゃ。手放しで喜ぶことはできないこともあるのだろうが、
くれぐれも無茶だけはしてくれるな。話したいことがあれば、いつでも待っておるぞ」
「ありがとう、爺ちゃん。爺ちゃんも無理はしないでくれよ。もうトシなんだから」
「はっ、一人前の口を利きおるわ。大丈夫じゃ、ここには大勢の仲間もおるし、無理はせんよ。
それよりも、さぁ、久々の再会じゃ。皆もおまえと話したがっとるだろう」
「うん、じゃあ、ちょっと行ってくる!」

厳しい訓練を終えて、数年ぶりに勝ち取った休暇は、久々に会った仲間達と騒いでいるうちに、
あっという間に過ぎていき、すぐに屋敷に帰る日が来た。
不思議だな、苦しい時間はものすごく長く感じるのに、楽しい時間はこんなにもすぐに過ぎる。
時間の過ぎ方は、いつだって変わらないはずなのに。
……屋敷に戻れば、いよいよ飛ぶことになるのか。
何度か試験飛行で空を飛んだことはあったけど、長距離は初めてなので少し不安はある。
それでもやはり楽しみでもある。でも、飛ぶのは良いとして、どんな仕事なのだろうか。

そして、短い休暇が終わり屋敷に戻った途端、男が言っていたとおり一息つく間すら与えられず、
すぐにも呼び出しがかかった。
さて、いよいよ、だ……。

「久々の故郷はどうだった」
「はい、とても楽しかったです!」
「そうか、うむ。では、いよいよ仕事に着いてもらうが、行けるな?」
「はい!」
「よし。今回はあの荷物をある屋敷に届けてもらう。到着位置は計器のほうに入力しておいた、
飛ぶ前に確認しておけ」
「了解!……それで、あの」

さっきから、僕が飛ばす予定の飛行機に、ずいぶんと怪しげな荷物が積み込まれている。
外見は真っ黒な箱で、遠目に見ても厳重な封が施されていて、中身がなんなのか外側からは、
まったく分からない。

「なんだ」
「あれは一体……なんです?」
「お前は知らなくていい。中身を確かめようなどと、馬鹿な考えも起こすな。命が惜しければ
積荷の詮索も含めて余計な考えは捨てることだ。ひたすら飛ぶことにだけ集中しろ。うわの空で
空路を外れたりするな。俺も、育て上げたばかりのお前を失いたくはない」
「はい……わかり、ました」
「よし。では、気をつけて行け」

爺さんが言うとおり、すべてが思うようになるとは思わなかったが、想像上に様々なことを
強いられての初仕事。そこには、初めて飛行機を見た日の高揚感はなく、その代わりに得体の
知れない不安と恐怖に、手足の震えが止まらなかった。
仕事自体は無事に目的地に到着して積み荷を運ぶことができたし、何事もなく帰路にも着いた。

けれど、その日に見た空は、幼い頃からずっと想い描いていたような美しいものとは違っていて、
なんというか、ただ青く、そこにはなにもない、空っぽの世界が広がっていた。
目に見えない透明な天井の、そのぎりぎりの場所を飛んでいるかのような息苦しさを感じながら、
何度、自分の心に問いかけたことだろう。
僕は本当に……この空に憧れていたのだろうか、と。

幼い頃からあれほど強く抱いていた願い事でさえ、今ではもう、よく分からなくなっていた。

作品紹介

『ぬくもりのうた』(未発表)
詞のイメージ・ストーリー

製作:2012年

佐々木 聡太郎

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