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『空のそらと、風のうた』~episode:10 -あらかじめ失われたもの・2-

「なにがいいものか……」
「ロ、キ……?」
「いいか、僕がここに戻ってくるまで、絶対にあきらめたら……死んだらだめだからな!!」
「……ロキ」

死んだらいけない。
僕のその言葉に、彼女は大きな目を見開いて、驚いたように僕を見つめていた。
そして、僕自身もまた、自分の言葉に驚いていた。
まさかこの口から、そんな言葉が飛び出す日が来るなんて、思いもしなかった。
本当にいまさらだ、本当に。だけど――。

「こんな僕なんかの言葉じゃ、君の生きる理由にはならないかもしれないけど。だけど……僕は、
君が居なくなったら、とても哀しい」
「……」
「もしもまだ、僕のことを信じてくれるなら……生きて、待っていてくれるかい?」
「ロキ……わかった。あなたを、信じる」

少し生気を取り戻したような声に、僕は黙って力強く頷くと、急いでこの場を離れようと試みる。
地下牢出入口の鍵はかかっている。当然か。詰め所には……なにか使えるものはないだろうか。
おそらく普段、この場所はあまり使われることがないのだろう。
見張りが使うはずの詰め所も荒れ果て、ものが乱雑に地面に散らばっている。
机の中には、なにか――。
引き出しを開けるが、どうでもいい書類や、暇潰し用のくだらない本以外は、なにも出てこない。
だが、もう一カ所、探すべきところがある。引き出しの裏だ。
人はなにかを隠す時に、自分には分かりやすく、それでいて他人には気づかれにくい場所に隠す。
いくつかの引き出しの裏を、上から順に確認してみる。上の段……なし。中の段、ここもなし。
あとは、下の段!
しかし、ここにも……どの引き出しにも、なにもなかった。机の天板の裏にもなにもない。

「……人間の習性なんて、大体似たようなもんだろうと思ったんだけどな」

なにも見つからないことに明らかな失意を覚えながら、のろのろと引き出しを直していく。
下の段……中の段。と持ち上げた時に、なにかが滑るような音がした。
あれ、この引き出し、中にも裏にもなにもなかったはずだけど。
――あ。

もう一つ忘れていたことがあったのを思い出し、もう一度、中段の引き出しを上下に振ってみる。
カラン、カラン。
確かになにかが入っている音がする。なるほどそうか、これは二重底だったのだ。
うっかり見落としてしまうところだった。なにが入っているんだろう。
地下牢のマスターキーでもあれば最高だが……と都合の良い妄想を抱きながら慎重に上の底を
はがしていく。その奥には――鈍色に光る古ぼけた鍵が一本、隠されていた。
まさかとは思うが、念のため、アウラの監禁部屋へと向かい、見つけた鍵を差し込もうと試みる。
だが、期待に反して、鍵はアウラの部屋の鍵穴とは一致しなかった。
――やはり、そうそう都合よく上手くいくわけがないのだ。
だが、ああして面倒な形で隠してあったということは、それなりに大事な場所を守る鍵のはず。

僕が扉近くまで来たのを知って様子をうかがいに来たアウラに、壁一枚隔てたまま、大丈夫、と
微笑んでみせて、急いで出入り口に向かい、手にした鍵を鍵穴へと進ませる……入るか?
すると、鍵は、まるで出逢うべき運命の相手を見つけたかのように、鍵穴に滑り込んでいった。

よし――。
だが、気をつけるんだ。鍵は意外に古い。
急いだり無理をして回せば、折れてしまうかもしれない。
僕は急ぎつつ、だが慎重にゆっくり鍵を回していく……。
緊張感の中、どれくらい時間が経った頃だろうか、やがてカチリッ、と小気味良い音を立てて、
扉の鍵が開いた。牢獄の造りといい、上に持ち上げる扉といい、この場所が地下牢であることを
物語っていた。
僕はそっと、開いたばかりの扉を持ちあげて、息を殺しながら、辺りの様子をうかがった。

僕はともかく、アウラを監禁している以上、見張りがいる可能性は高かった――はずなのだが、
どれだけ見回してみても、誰一人としてそこには居なかった。
だがもう、動揺はしない。なぜだ、とも、ついてるとも思わない。
今度こそ、一つ一つのことに細心の注意を払い心してかからなければ、僕はおろか、
今度ばかりは彼女の命運さえ尽きかねないのだから。

滑り出るようにして素早く外に脱出すると、手近にあった物陰に身を潜めた。
念のため扉には外から鍵をかけた。誰かが確認に来たとしても、ひとまずは誤魔化せるだろう。
だが、僕を“処分”するために連れだす人間が来たら、お終いだ。
僕が逃げたことを気取られてしまい、見回りや追っ手が増員されれば、再びここに潜り込んで、
彼女を助け出すことは非常に困難か、あるいは不可能になってしまう。
急いでここを立ち去らなければ。
アウラの監禁部屋を開けるための道具……あとはそうだ。退路も用意しておく必要がある。
退路か……陸路や海路がだめだとなれば、やはり、空しかないとは思うが……。
あの特殊装置がある限り、万が一にも空路を外れたら、それこそ一巻の終わりだ。
それに、空路は行き先に合わせてその都度、屋敷の技術屋によって更新されるため、
どこを飛べば必ず安全である、という場所も保証もない。
――とにかく、今は余計なことを考えている場合ではない。
幸い、すっかり夜も更け、闇が僕の体を隠してくれている。今のうちに出来ることをしておこう。
地下牢があることすら知らなかったのだから、この場所も、僕の知らない場所だと考えたほうが
良さそうだが、整備場にはどこから向かえばいいだろう。

先の見えない暗闇に向かって走り出した。

作品紹介

『ぬくもりのうた』(未発表)
詞のイメージ・ストーリー

製作:2012年

佐々木 聡太郎

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佐々木 聡太郎