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『Yell』イメージ・ストーリー 2

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でも。よくよく考えてみたら、昔からそうだったかもしれない。
中学の頃の担任が名づけた卒業文集のタイトルも『未来に羽ばたけ!』だったし。
(さすがにコレはないなと思うのだけど・・・)
それに、「可能性はいくらでも、どこにでもある」だの、「夢を持ちなさい」だの。
思い返してみると、なぜだか大人たちはいつも、そんなことばかり言っていた気がする。

あのね・・・羽ばたくって、わたしら鳥じゃないっていうんですよ。
音楽コンクールで歌わされた古い課題曲にあったけど、なに・・・大空が自由?
カナシミのないとか本気で言ってんの。空を飛ぶ鳥の苦労が、人に分かるっていうの。
自分の足下を見るので精いっぱいのくせに、空を飛びたいだなんて何億年か早いわ。

それに、夢とか可能性って言葉、本当に便利よね。
バカみたいに耳心地の良いフレーズにしか聞こえないんだもの。
どんなに無責任に言っても、大人はツミにもならなければ、怒られることもない。
『自分の発言と行動には、きちんと責任を持ちなさい』
学校とか、家でよく言われた言葉。
だったら、自分たちはどうだっていうの。
きっと、なにも知らない子どもだと思って、適当なことばっかり言ってたんでしょ。
でも、私、知ってたんだ。
だから、文集の将来の夢の欄にわざと『特になし』って書いてやった。
そしたら、先生にマジメにやれ、と怒られた。変な話だ。
たかが、あんな紙きれのすみっこの小さなスペースに『ユメ』を書かなかっただけで、
どうしてマジメじゃないって決めつけられて、怒られたりしなきゃならないの。
なんだか、とっても理不尽だった。

結局、そんな言葉を真に受けても、受けなくても、“未来”に飛び出した私たちに、
世界はいつだってやさしくはなかったと思う。
一歩踏み出すたびに、なにかを願うたびに、掴めるものなど少ないのだと、
冷たい現実の波に押し戻されることのほうが、多いのだから。
でも、冷たさを教えてくれた世界のほうが、ある意味あの人たちよりいくらかやさしい。
どのみち、あの無責任な言葉や、世界がやさしくないことに腹を立てるのは、
もうやめてる。
ただ、もうたくさんなだけ。
本当は心にもないくせに、キラキラと飾り立てられたニセモノの言葉。
さんざん聞き飽きた言葉。
愛も、夢も、希望も、未来も、そのすべてが、なんだかもう煩わしいだけなんだ。

けれど、そういう言葉や、感情をぜんぶ否定してしまったら、
私はなにを信じて、なにを表現していけばいいんだろう。
私は、誰になにを伝えたくて、なにを歌っていたいと思ってるんだろう。
そうしてまた、矛盾した頭の中は、振り出しに戻ってしまうのだった。
若いからダメ・・・本当にそうなの?
初めからバカにするなら、どうしてあんなキラキラした未来ちらつかせて、手招くの?
そのくせに、どうして若いってだけで否定するの?
ねぇ、自分だって昔は若かったんじゃないの?

どうしてなにも教えてくれないの。
どうして甘えるなって言うの。なにが良くて、なにがダメなの。
ねえ、教えてって言うことは甘えなの。それって、そんなに悪いことなの。

私はこの先もずっと、このままなの。なにひとつ欲しいものを手に入れられないの?
本当に分からないから、訊きたいだけなのに。
誰か、誰か教えてよ。
私は・・・私だって・・・っ―――

いくつも絡みあい、いつまでも解けない疑問と、あまりにも思うようにいかない現実に、
自分でも気づかないうちに、私は、ぼたぼたと涙をこぼしていた。
知らず知らず、両手できつく握りしめて、しわくちゃになったパンフレットは、
その涙を吸って、安っぽい印刷のインクを滲ませながら、情けなくふやけていた。
(どうせこんなもの、もういらないんだ・・・!)
私はそれを、そのまま一気にグシャッと握りつぶして、ゴミ箱に向かって放り投げた。
本当は、自分ごと捨ててしまいたい気分だった。
今、この部屋で一番片づけなきゃならないのは、私かもしれないんだ。
けれど、すっかりド派手な紙ボールと化したそれは、ゴミ箱のフチに当たって跳ね返ると、
外に転げ落ちた。

「はは・・・ここでも突き放されましたかー。ここまでくると、なんかもう笑える」

私の涙を吸った忌々しいその紙ボールを、もう一度拾って捨ててやる気力も、今はない。
部屋がくだらないゴミで少しくらい散らかろうと、どうでもいい。
きっと私が一番くだらないんだから。
そう思った私は、ため息をつきながら、力なくベッドに倒れこんだ。

自然と見上げる天井と、その横の壁に張られたポスターのなかに、
今の私を作った憧れの“あのひと”が笑っている。
私は“あのひと”が、このポスターの中で笑えるまでに、
どれくらい苦労したのかを、私なりに知っている。
何度もくじけそうになった、それでもあきらめなかった。
“あのひと”が、そう口にしているのを、色んな媒体で何度も、見たり聞いたりした。
「夢をあきらめないで、必ず叶うから」と、普段だったら私が絶対に信じない、
その言葉だって聞いたし、信じた。
そして、上辺だけじゃなく、本当に実現して見せてくれた、
あの夢みたいなコンサート・・・あれは、絶対に忘れられない。
だから今、“あのひと”は、あのポスターや、CDジャケットの中で笑えてるんだろうか。
けれど、もしかしたらあの笑顔にだって、色々な思いが秘められているのかもしれない。
だって、人は見た目だけじゃ分からないから。
笑っていても、哀しい時だってある。泣きたい時もあるから。
“あのひと”もそんなふうに、人間として、私と同じもので出来ているんだとしたら。
それなら、“あのひと”と、私の違いってなんだろう。

私は、あとどれぐらいつまずいて、何度起きあがって。
どれぐらい頑張れば、“あのひと”と同じ場所にたどりつけるんだろう。

大体、私は、“あのひと”のなにを知っているというのだろう。
同じ場所にさえ、まだ行ったこともないのに。
テレビや雑誌で、見聞きしたこと?
それがすべてだと思う?

そんなはず、なかった。

-3-
―――たとえば。
ずっとこだわり続けてきた夢もポイっと捨ててしまって、ありふれたやり方で、
ありふれた時間を過ごせば、もっともっと楽になって、私は今よりも笑えるだろうか。
あれこれと、うまく行かないことが多いけど、それでも私の日々も、それなりに回ってる。
高望みをしなければ、小さなことにも、喜びや幸せを感じられるのかもしれない。

けれど、どんなに想い描いてみても、そんな自分を想像することができない。
もうすでに何度も何度も、そうしてみたけど、やっぱりそんな未来の自分は見えなくて。

考えることに疲れてしまった私は、枕もとに置いていた携帯音楽プレイヤーの電源を
入れ、イヤホンをつけて、少しボリューム大きくしてお気に入りの歌を聴き始めた。
頭の中を、その声だけで埋め尽くそうとして。

イヤホンから流れ込んでくる音楽だけが、私の支え。
“あのひと”の歌に、声に出逢って、私の世界は変わったんだ。

―――そういえば。

もともと私は、小さなころから歌うのが好きだった。
はじめて覚えたのは、父が持っていたラジオから流れてた曲だった。

曲名は分からないし、今じゃどんなメロディだったかも覚えてないけど、
なんだかすごく気に入って、一生懸命覚えたんだ。
難しくてちゃんと歌えなかったけど、私がそれを歌ってみせると、
両親は、やさしい笑顔で褒めてくれた。
それが嬉しくて、今度は友達の前で歌ってみた。
そしたら、すごい、すごいって言われて、それがまた嬉しくて、
友達と一緒に、色んな歌を知ってるだけ、ずっと歌っていたっけ。

でも、それから少し経った頃、私が歌うことで、いじめを受けるようになった。
今考えると、子どもの世界で、だいぶ目立ち過ぎたのかもしれない。
けれど、私にそんなつもりはなくて、いつものように楽しくみんなでやっていた。
なにも他意はなく、ただ、そのつもりでいた。
そう思っていた私に、そのいじめは、あまりに突然で、とても辛い出来事だった。

私と一緒に歌っていた友達も、去っていった。
当時はものすごく悲しかったけど、あの子たちだって巻き込まれたくなかったんだ。
その気持ちはよく分かるから、今はもう責める気にはならない。

子どもの世界は、大人が思っているよりもずっと残酷だ。
目立つものを黙らせたい、潰したい、いじめたい。
それが一つの部屋に押し込められた子ども達の、暗黙のルール。
いや、そこにルールすらないのかも。
だって、理由なんて、気に入らないとか、たったそれだけでも構わないのだから。
どのみち、子どもの世界なんて、そんなもんだ。
シンプルな本能は加減を知らない。だから怖い。

そして、私は、その頃から歌うことをやめた。
それから、私の世界の見え方は少なからず、歪んでしまったと思う。

作品紹介

昔、同人音楽サークルで作った「Yell!」という曲に書いたものです。
単にアーカイブです。

佐々木 聡太郎

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佐々木 聡太郎

『Yell』イメージ・ストーリー 3

-4-
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佐々木 聡太郎

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佐々木 聡太郎