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『虹色カナタ』 Image Story ep:07

彼女が旅立ってから、どうやら一週間ほど経ったらしい。
らしい、というのは、僕がすっかり抜け殻になってしまい、あまりの弱りぶりに両親が心配するほど
だったからだ。焦点の定まらない目で天井を見つめながら、時間も忘れて、聴くことができなかった
彼女のあの最後の言葉を、破れかけた記憶の中から、必死に手繰り寄せようとした。

「なぁ・・・あの時、なんて言ったのさ。どうしていつも大事な時に、言葉ってやつは・・・」

ぼーっとした意識の中、ふと、家の一階がやけに騒々しいことに気づいた。
一体なんだって言うんだ。なにをあんなに騒いでいるんだろう。お祭りでもしているのだろうか。

そんなことをぼーっとした頭で取りとめもなく思っていると、母が階段を駆け上ってきて、腑抜けた
僕の顔の前に、しっかりしなさい!とばかりに、少し厚みのある封書を突きつけてから、ニッと笑って
一階に戻っていった。

一体、なんなんだよ。こっちは妙な騒ぎに付き合ってる気分じゃないのに・・・。
そう思いながら何気なく差出人を見ると・・・そこには船出を見送ったあの日からずっと頭の中を
埋めつくしていた、懐かしい、あの名前が書かれていた。

それに気づいた途端、それまでの抜け殻っぷりがまるで嘘のように、自分でも驚くほど俊敏な動作で
封筒を開けて、少し乱暴に中の手紙を引っぱりだすと、夢中になって読み始めた。


 親愛なるオルトへ

・・・なんて、今さら書くと照れてしまうね。っと、いけない。いけない。
 どうしてもいつものノリになってしまいそうになりますが、今日は真面目に書かなければ。
 
 でもね、まだ色んなことが落ち着かなくて、気持ちもグチャグチャで、ホントのところは、
 書きたいことはたくさんあるけど、なにを書けばいいか、分からないんだ。
 というわけで、うまく書けなかったら、ごめんね。

なにから書こうかといろいろ思い出してみるけど、やっぱり一番先に浮かぶのは、
 小さな頃からいつも一緒に居てくれたことかな。
 いま思い返してみれば、結構イジワルもされて、大嫌いって思ったこともあったけど、
 それでも優しかったから、やっぱり大好きだったよ。楽しかったね。
 そういえば、オルトの服のすそをいつも掴んで、しわくちゃにしちゃって、ごめんね。

虹の根っこを探しに行ったあの日のことも、ちゃんと覚えてるよ、忘れられないよ。
 小指の約束、オルトに教えてもらった大切な約束のこと。

オルトが私のために一生懸命、露店のおじさんに話をしてくれたこと。
 『虹のカケラ』は買えたけど、お母さんに叱られて、こっそり泣いていたことも。
 全部、後で知った話だったから、ちゃんと謝ることも、お礼を言うこともできなかったけど、
 オルトはいつも優しいお兄ちゃんだったね。お兄ちゃん、か。今の私にとっては・・・どうだろう。
 最近は少しだけ『お兄ちゃん』じゃなくなってきた、かも・・・(ドキドキした?)

私が旅立つ日まで、黙って傍にいてくれてありがとう。
 言葉は無かったけど、それだけで、どんなに心強かったか、分かる?
 
 本当は泣かないって決めていたけど、船に乗ってから私、やっぱり泣いてしまって、
 私の声・・・きっとなにも聴こえなかったよね?
 だから、もう一度、ここで言います。

想うだけで、そばにいるよ。

ありきたりな言葉だけど、素直な気持ちです。
 いままで本当にありがとう。
 しばらくお別れで、すごく寂しいけれど、ちゃんと手紙送るから、返事ちょうだいね。
 きっとだよ。

それから・・・少し迷ったけど、オルトに知ってほしいことがあるの。
 私の願い事のこと。誰にも話さないって決めていたけど、やっぱりオルトにだけは
 話しておきたくなったので、書きたいと思います。

私が来た街は、ガラス工芸が世界的に有名で、私は、ここでガラス職人を目指そうと
 思ってる。そしていつか『虹のカケラ』のような、素敵な色のガラス細工を作りたい。
 ただの物じゃなく、ひとの気持ちを繋ぐような、そんな素敵なものを作ってみたいの。
 
 私とオルトが、あの時一緒に見た虹と、この『虹のカケラ』で繋がっているみたいに。
 
 ・・・オルトも、そうだよね?
 だから、きっと、また会える。私はそう信じてる。
 その日を楽しみにしながら、これからを頑張ってみようと思います。

それでは、どうか体に気をつけて、元気でいてください。
 またね。

ルミネ    』

作品紹介

コミックマーケット81、リリースタイトル
『虹色カナタ』(Daisy Rock)のイメージ・ストーリー

イラスト&デザイン:日下部ハルカ

製作:2011年

佐々木 聡太郎

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