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『Yell』イメージ・ストーリー 1

―――そういえば、いつからだろう。

あの日、自転車で転んで、ケガをしたのは、お父さんのせい。

欲しかった服と、違う色の服を着てたのは、お母さんのせい。

今朝、電車が故障で遅れたのは、タイミングが悪かったせい。

今、こんな電話が鳴ったのは、きっと、そういう運命のせい。

じゃあ、選べるって信じてた未来が選べないのは、誰のせい?

世界は本当に冷たくて、イジワルだ。

そういえば、いつからだっただろう。
こんなふうに、誰かや、なにかのせいにして。
大切な時間をため息で曇らせるようになったのは―――。

-1-
「・・・!!・・・もし!!、もしもーーーし!!?」

どれぐらいの間、私の意識はその辺をさまよっていたのだろうか。
だらしなく天井を見上げていた私の耳に、誰かの声がひどく遠くに聴こえはじめると、
その声はどんどんボリュームを増し、やがてものすごい大声になって耳に飛び込んできた。
そういえば・・・ついさっき電話がかかってきて、出たばかりだったはずだ。
私は慌てて、電話の向こうの相手に話しかけた。

「あ、は、はい!」
「はぁ・・・あの。だからですね、このレベルだと、ちょっとねってことです」

電話の向こうの男が、面倒臭そうな口調で一言、そう言った。
ちょっとって、なに・・・!?
私は、その言葉の意味が、やはりすぐには呑み込めずに、
いや、明らかに呑み込みたくなくて、何度目かの同じ質問を返した。

「あ、あの、すみません!よかったらどの辺が良くなかったのかを―」

気持ちで負けないようにと言い聞かせて、自分でははっきりと訊き返したつもりだった。
けれど、その声は緊張のせいか、口の中はカラカラに渇いて、思っていたのとは
だいぶ違う、かすれたものになってしまった。
結果、おずおずとした態度になってしまった雰囲気を、男は敏感に察知したのか、
さっきよりも、さらにぞんざいで強気な口ぶりになって、不機嫌そうに喋り出した。

「どの辺とか、そういう話じゃないんですよねー。君みたいな子が、最近多いんだよね。
カラオケとか歌みた世代っての?多少歌が上手いくらい、今どき、当たり前みたいに
なってるのに、それだけですぐプロ目指すとか軽い気持ちで思っちゃう人が多くてさ、
こっちも困るんですよ」
「わ、私は、そんなんじゃ・・・!!」
「あーあー、あなたの事情とかイイから。まぁ、あなたの声質はね、悪くないとは
思うけど、なんていうかー、そう!ありふれちゃってると思うんだよね。新鮮味に
欠けるというか。歌い込みもまだまだ粗いし、この程度で音楽業界にって・・・
ちょっと甘いんじゃないの?」

いくらか本当のことだとしても、ずいぶんと言いたい放題だ。
たしかに、歌と唄うことが好きなだけの私は、きっと音楽のことなど分かっていない。
それは、自分でも自覚しているつもり。
それでも、私よりもさらに音楽を分かっていないであろう男の見下すような声が、
私の耳を突き抜けていくのは、どうにも我慢ならなかった。
そして、その正直な私の本能も、男の声を聴き続けることを拒否したようだ。
気づくと、耳に当てていたケータイを離して、そのまま手をだらしなく下げていた。
うつむく私の姿が、壁にかけてある少し曇った鏡に、うっすらと映っている。
・・・なんて情けない顔。迷子みたいだ。
もしこんな電話の最中じゃない時にでも見たら、幽霊だと勘違いしてしまうかも。

「・・・・・・。」
「≪あれ、もしもし?もしもーし!?・・・ダンマリですか。あ、切っちゃったのか?≫
ったーく、最近の若いのは」

『最近の若いのは。』
あれ、いまのって・・・?
でも、ケータイは手元にあったし・・・声なんか遠すぎて聞こえないはず。
現に、いまのいままで、あの男の声なんて、まったく聞こえていなかったじゃないか。
それなのに、どうしてアノ言葉だけが、鋭く耳に飛び込んできたのだろう。
私はふと正気を取り戻すと、悔しさを抑えながら、無理やり言葉を捻りだす。

「ど、どうも!お世話になりました、ありがとうございました」

嘘だ。心にもないことを言って、また、ひとつ嘘が溜まっていく。
もし嘘を貯められる銀行があるなら、今ごろ私は大金持ちになってるだろう。
いや、嘘が貯まっていくんだから、そのうち大嘘つきってことになって、オオカミが
来たと言っても、誰にも信じてもらえないかも・・・などと、現実逃避していても
始まらないのだけど。
「えっと、あの」
「あー(ちっ)・・・んじゃ、ま、頑張ってよ!!」
聞こえていないとでも思ったのか、大きく舌打ちすると、「はい、失礼します」と
こちらが言うその前に、私に向かって一方的に無責任な言葉を投げつけて、
耳が痛くなるくらい大げさに、ガチャンッと受話器を置いた。
その音がずっと耳の奥でキンキンと大きく鳴っている。

なんだ、それ。
最近の若いのって。
なんで、二言目にはそればっかりなんだ。
おまけに、さんざんバカにしておいて、いまさらなにを頑張れっていうの。
・・・思ってもいないくせに。ふざけんな。

これでもう何度目だっけ、見事にオーディション落選。
これだけ落とされていれば、こういう反応も慣れっこだわ。
いや、そのつもりでいようと、がんばっただけ。
本当はこんな気持ち、慣れたりできるわけがないし。
選ばれなかったそのたびに、自分の才能のサイズを思い知らされるし、
しまいには、私の存在そのものが否定されているような気持ちになるんだから。

それでも、また機会があれば挑戦してしまう。
本当にどうしようもないなと呆れて、自分に苦笑いしてしまうけど、
私はまた、どこかへ傷つきにいこうとするんだろうなぁ。
いや、べつに傷つくのが目的じゃなくて、結果的にいつもそうなるだけなんだけど。
それでも歩みをとめたくないのは、“あの日”から強く強く願っていた、
あの憧れにたどり着きたい想いがあったから。

それにしたって、くじけないだの、あきらめないだの・・・。
なんだかまるで少年マンガみたいだ。
自虐的な感傷に浸っていた私は、ふと自分の姿をそんなふうに思って、薄く笑った。
夢を形にするためには、願い続ける強い気持ちが、なにより欠かせないと思う。
でも、それだけでは続いていかないことも、私は知っている。

すでに、ツーツーという断続的な機械音しか聴こえなくなったケータイを、
どれくらいの間、握りしめていたのだろうか。手のひらは、真っ赤になっていた。

のろのろと通話を切ると、机の脇に無造作に置いたままの、一枚のパンフレットに
目がとまる。
それはついさっき落選したばかりの、オーディションのパンフレットだった。
それには、ポップで、なんとなくギトギトした流行り風のイラストと浮ついた字体で、
「次世代の音楽シーンを飾るのは君だ!!」なんて、そんなフレーズが書かれていた。
今にして思えば、なんとも安っぽい。

なにが『君だ!!』だ。
この言葉だって、もう何度も信じて、そして裏切られたんだ。
・・・勝手にね。

作品紹介

昔、同人音楽サークルで作った「Yell!」という曲に書いたものです。
単にアーカイブです。

佐々木 聡太郎

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『Yell』イメージ・ストーリー 2

-2-
でも。よくよく考えてみたら、昔からそうだったかもしれない。
中学の頃の担任が名づけた卒業文集のタイトルも『未来に羽ばたけ!』だったし。
(さすがにコレはないなと思うのだけど・・・)

佐々木 聡太郎