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『虹色カナタ』 Image Story ep:02-1

あの頃の僕たちは本当に小さくて、頼りなかった。
思い返すと、もどかしいような、くすぐったいような、そんな気分になる。
とくにルミネ、君はいつも僕の後ろをちょこちょこと着いてきては、僕の後ろに隠れたりして、
それになにより、気が弱くて、泣き虫だった。僕の服のすそを握るクセもあったっけ。

だから、僕は・・・なんだろう、君が少し年下だったから?とか、好きだから?とか。
理由を色々考えたけど結局分からなくて、ただ、何度も何度も繰り返し読んだ、大好きな
あの絵本の強い騎士のように、守ってあげなくちゃと、そんな気持ちでいた。
そして、君のことをそんなふうに想えることを、僕は嬉しく思った。
結局、そのことは君には一度も言っていないけど。
実際に面と向かうとなんだか照れ臭くて、きっとぶっきらぼうな態度でいつも君に接していた。
その、名前も正体も分からない気持ちを隠すためだったのかもしれない。

訪れる人も少ない小さな村に暮らしていた僕は、まだ見ぬ世界を、本の中に夢見ていた。
そこには僕の知らない信じられないような世界のことが書いてあって、何度も同じ本を読んでは、
そのたびに胸を高鳴らせていた。

そして、あの大きな、本当に大きな虹を見つけた日。
たしか前に読んだ本に、虹の根っこには見知らぬ世界があると書いてあったのを思い出した。
そこにどんな世界があるんだろうと、色んな物語を胸に描いては、ワクワクしていたことも。
もしかしてあの虹のふもとに行けば、本の中で見た世界に出会えるかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられなくなって、僕は急いで君の家まで走っていった。
虹を目で追いながら、息を切らして、それでも、スピードは緩めずに、君の家まで。

扉を叩いて名前を呼ぶと、君のお母さんの元気のいい返事が聞こえてきて、
それから、君の小さな足がトタパタと走る音が聞こえて、扉を開けてくれたのを覚えてる。

「オルトぉ!」

その時、僕を見て、君が顔をほころばせたこと。
そしてすぐに、僕の後ろにある大きな虹を見つけて、綺麗!綺麗!と大はしゃぎしていたことも。
その姿を見た僕は、虹を見た時よりも嬉しくなったんだ。ほんのちょっとだけ、だけど。
ああ、教えてあげて良かったなって。

「ねえ、あの虹の根っこを探しに行ってみない?」

君があまりにもはしゃぐものだから、僕もふと、そんなことを口走っていた。
初めから誘うつもりで走って来たとはいえ、言った後で突然過ぎたかな、とも思ったけど。
それでも、きっと、君も笑顔で頷いてくれると思った。だって、あんなに喜んでくれたんだから。
けれど、君はなぜだか頷かなかった。

急に黙り込むと、うつむいて、小さな手のひらをギュッと固く握りしめて。
そして、気づくと地面にぽたぽたとなにかがこぼれ落ちて、丸い模様を作っていた。
それが涙だと気づくまで、僕には少し時間が必要だった。

「ど、どうしたのさ」

その涙の意味が分からなかった僕は、すっかり動揺してしまっていた。
ついさっきまであんなに喜んでいたのに、どうして今は泣いているのだろう。
なにか悪いことを言ってしまったのかな。やっぱり突然過ぎて、驚かせてしまったんだろうか。

「なんで泣いてるの?どこか痛いの?」

なにを訊いても、君は下を向いたまま首を横に振るだけ。
今にして思えば、それはとても幼稚な問いかけだったなと、自分でも可笑しくなるけれど、
その頃の僕にはなにも分からなくて、ただひたすらオロオロと戸惑っていたと思う。
でも、たしかあの時、君は僕の服のすそを掴んで、下を向いていた。
きっと不安だったのだろうと、今なら気づけることでも、その頃の僕にはなにがなんだか
さっぱりだった。

「きゅ、急にどうしたの?さっきまであんなに喜んでいたのに」
「だって・・・」
「だって?」
「だって、お出かけ、こわいんだもん・・・おうちに帰れなくなったらどうするの?
パパとママにもう会えないの、やだ・・・いやだもん!」
「そんな、帰れないだなんて。そんなことない、大丈夫だよ」
「・・・どうして?どうして、だいじょうぶなの?」
「・・・う」

僕は思わず言葉に詰まってしまった。
大丈夫だと言ったのは気休めでも嘘でもなくて、本当にそうだから、そう言っただけだ。
だけど、どうして大丈夫なのか、どんな言葉で伝えたらいいのか、分からなかった。
なんて言えばいい?分からない…そんな頭の中の繰り返しが、なんだか無性に悔しかった。
大人だったならきっと、大丈夫な理由をもっとちゃんと言えるはずなのに。

作品紹介

コミックマーケット81、リリースタイトル
『虹色カナタ』(Daisy Rock)のイメージ・ストーリー

イラスト&デザイン:日下部ハルカ

製作:2011年

佐々木 聡太郎

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