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『虹色カナタ』 Image Story ep:02-2

空に大きな虹を見つけた。
だから、君にも見せたくなった。
そして、同じものを見て、綺麗だと言いたかった。
あの虹を、一緒に追いかけてみたかった。ただそれだけ。
そんな単純なことが、どうしてちゃんと伝わらないんだろう。

言葉に詰まったまま、固まった僕は困り顔・・・もしかしたら怖い顔をしていたのかも。
気づくと大粒の涙を浮かべて、彼女が僕の顔を見つめていた。
やっぱり僕がもっと大人なら、良かったのに。

そう思った途端、僕も自分の目になにか熱いものを感じた。
くそ・・・泣いてたまるか。男の子なんだぞ。
何度も自分に言って聞かせるけど、目に溜まったそれは今にもこぼれそうになっていた。
だから僕は、少しだけ乱暴に、それをぬぐってみせた。
少し強くこすった目がヒリヒリと痛んだけど、どうってことない、と、気づかないフリもした。
僕たちの様子を見かねたルミネのお母さんが、少し困った顔をして、僕に助け船を出してくれた。

「ごめんね、オルト君。ルミネはきっとあのことを気にしてるのね」
「えっと、あのこと・・・って?」
「うん、実はね、家にしばらく猫ちゃんが居たんだけど、最近出かけたまま帰ってこなくなったの」
「メルちゃん、お出かけしちゃったから帰れなくなったんだよ!?だから、お出かけこわいの・・・」

・・・猫。あれ、でもルミネの家って、猫なんて飼ってたっけ?
見たことがない気がするんだけど。
僕が不思議そうな顔をしているのを見て、今度はルミネのお父さんが、話を繋いでくれた。

「まぁ、迷い猫だったんだと思うよ。しばらく家に居たんだが、そのうちどこかへ行ってしまってね。
きっと生きてるとは思うんだが・・・メルがいなくなってから、ルミネが出かけるのを嫌がってな」

あぁ。最近あんまり外に出てこなくなってたのは、そういう理由があったのか。
それでこんなに怖がって・・・。

「ルミネ、猫・・・メルと一緒だったの?」
「うん、おともだちだったの。大好きだったのに」
「そっか・・・悲しかったね」
「・・・うん」
「でもさ、メルもお家に帰ったのかもしれないよ」
「ぇ・・・ほんとっ?」

その瞬間、まるで花でも咲くように、ぱっと彼女の表情が明るくなった。
でも、今言ったことが本当のことかどうかなんて、僕に分かるわけがなかった。
僕が言ったことはもしかしたら嘘、かもしれない。
それでも、いつまでもルミネに悲しんでいてほしくなかったし、
いつもの元気で、可愛らしい笑顔に戻ってほしかった。
だから僕は、自分にも言い聞かせるように、少しだけ大げさに頷いて見せた。

「ルミネだって大丈夫だよ。お出かけしても、ちゃんとお家に帰って来られるから」
「どうして?」
「僕が一緒に居てあげるから。だから、大丈夫。僕が嘘ついたことなんて、あった?」
「あったもん、いっぱいあるもん」
「・・・ぐぅ」

言われてみると、実は色々と思い当たる節はあるといえば、あるかも。
ついさっきも、もしかしたらそうなんだっけ・・・。
嘘、というほどではないと思うのだけど、よくからかって遊んでいたのを思い出した。
いや、正しくは、からかったというより、僕としてはただ、じゃれ合っていただけのつもりで、
そして、きっと彼女も一緒になって遊んでいるものと思い込んでいた。
でも、彼女はいつもの僕のそれを『嘘』と感じてしまったことが、きっと何度かあったのかも。
そう思ったから、意地を張るつもりなんてなかったんだけど。

けれど、どうしてだろう、ルミネに嘘つき呼ばわりされたのが悲しかったせいか、だんだんと
引き下がったら負けになるような気がしてきた僕は、少し強気な顔をして、わざと突き放すような
言葉を吐いていた。

「そっか、分かった。それじゃあ残念だけど、嘘つきオルトは一人で行くことにするよ」
「・・・ぇ」

その瞬間、ルミネの表情が曇った。
少しだけ胸がチクリと痛い・・・ちょっと言い過ぎた、かな。
それでも、つまらない意地を張って今度こそ引き下がれなくなった僕は、その後悔もすでに遅く、
心にもない言葉を続けるしかなかった。

「まぁ、虹のカケラでも落ちてたら、お土産に持って来てやるからさ」
「一人で、かえれなくなったらどうするの!?」
「だからぁ、大丈夫だって言ってるじゃないか。しつこいな」

じゃあ・・・と背中を向けて歩き始めようとした時、服のすそを強く掴む、君の手を感じた。

「・・・なにするのさ。しわくちゃになっちゃうじゃないか」
「・・・いく」
「なんだって?」
「いくもん!いくんだもん!!」

今度は急に怒りだした。一体なんだって言うんだ・・・?
僕たちの話を黙って聞いていたルミネの両親も、出かけると聞いて不安そうにたしなめ始める。

「ねぇ、あなたたちだけで遠くまで行くのは危ないと思うのだけど・・・?」
「そうだな、さすがに子どもたちだけじゃなあ」

せっかくルミネが行く気になったっていうのに、もう。
子どもの僕は自分勝手にも、彼女の両親の心配など考えず、失礼なことに鬱陶しいとさえ思った。
とにかく、このままでは引きとめられてしまう。
その時ふと、あることを思い出した。

そうだ、虹に興奮してすっかり忘れてしまうところだったけれど、今日は、父さんに買い物を
頼まれていたんだ。僕の父さんは画家をやっていて、昨日の夕食の時に、切れた絵の具だとか、
画材を買ってきてほしいと言われていたのだった。

そこは母さんもすかさず「子ども一人で街なんて!」と、ルミネの親と同じことを言っていたけど、
実は既に、「母さんには内緒な」と父さんに口止めされて、僕は何度も街まで出かけているのだ。
だから、遠くまでは行けなくても、あの街までくらいなら、なんとかなるかもしれない。

「おじさん、おばさん、大丈夫!そんな遠くには行かないです。実は、街に用事があるんだけど、
あそこならそんなに遠くないし、それぐらいならどうですか?」
「うーん、街か。君は行き慣れているのかい?」
「僕は何度も父さんの使いで街まで行ってます。だから大丈夫。それに街より遠くには行きません」
「・・・どうするの、あなた?」
「うん、まぁ、それなら少しは安心だけど、道中が少し不安だな。今日誰か街まで行く人がいないか、
聞いてみるよ」

僕たちだけで大丈夫なのに。と、正直思ったけど、彼女のご両親も少しは賛成してくれ始めたので、
それならあとは、今は街に行く大人が見つかることを祈るだけだった。

「分かりました、それじゃあ、僕は一応出かける準備をしに、家に戻ります」
「分かった。街に行く大人がいたら、娘共々君の家にご挨拶に行くから、その時はよろしく頼むよ」
「よろしくたのむー♪」

ご両親に、それと間延びしたルミネの声に応えてから、僕は"頼れるお兄さん"よろしく、胸を張って
ルミネの家を後にしたけれど、内心、かなり焦っていた。あの虹が、消えてしまわないだろうかと。
それまでに、街に行く大人が見つかってくれたらいいけど・・・。

作品紹介

コミックマーケット81、リリースタイトル
『虹色カナタ』(Daisy Rock)のイメージ・ストーリー

イラスト&デザイン:日下部ハルカ

製作:2011年

佐々木 聡太郎

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佐々木 聡太郎